ウソをつく余裕ないまま春の日は大きなウソで成り立っている
あたらしい靴は固まりやすくって春を発動させる沈黙
ビル風の寒さは色が違うからぼくのことばはうたになれない
週末の夜を見送る階段がブルーノートを奏ではじめる
この街のどこかできみとすれ違うお互い顔を知らないままで
夕暮れの駅前通りの先に居る太陽もいま帰路につきます
犬派でも猫派でもないひとだから泣きたいときに泣けるのだろう
ことばだけ優しくしても無差別に春風は吹く もう戻れない
雨の夜傘を濡らしたくはなくて定時で帰れないことにした
空のない部屋に閉じ込められるためこの街に来たわけじゃないのに
ビル風がどこに行くのか気になって午後から休むことにしました
三日月が沈むあたりに住むきみがぼくを思い出しませんように
奪われることがこの時期多すぎてあの横綱も春に散るのか
週末の夜に巻き散らかしてきた足跡はみな北を向いてる
お互いの夜の長さを持ち寄ってそれでも一歩踏み出せなくて
気がつけばきみの炎は消えていてぼくの季節は燻ったまま
春が来てぼくに選択肢はなくてぬかるんだ道歩くしかない
目覚めたら週の真ん中水曜日ベッドの海に溺れても朝
金曜の雨は優しい顔をして本音を吐けと追い込んでくる
早朝の身体は少し透けていて邪悪な雲に同化しやすい
週末のぼくら浮き輪になりたくて貪りもせず抱き合っている
春風に堕ちてはいけない恋だけどおなじ鏡に映りたかった
失った恋を数える指だけが器用になって春風の吹く
誰もいない夜のホームは眩しくてつぎの電車は土星行きです
駆け足で過ぎゆくだけの春だから本気になれば傷を負うだけ
熱が出る予感のように脈を打つ明日はあしたのぼくになりたい
できるだけ遠いところにいきたいなそろそろ影と離れたいんだ
正しさを求めてしまう春だから本音を隠すようになったね
終わるのが怖かったんだぼくはまだ花のようには潔くない
五月には五月の罠があるだろうほうじ茶ラテが薄く感じる