2024年11月2日土曜日

短歌  2024年4月

ウソをつく余裕ないまま春の日は大きなウソで成り立っている




あたらしい靴は固まりやすくって春を発動させる沈黙




ビル風の寒さは色が違うからぼくのことばはうたになれない




週末の夜を見送る階段がブルーノートを奏ではじめる




この街のどこかできみとすれ違うお互い顔を知らないままで




夕暮れの駅前通りの先に居る太陽もいま帰路につきます




犬派でも猫派でもないひとだから泣きたいときに泣けるのだろう




ことばだけ優しくしても無差別に春風は吹く もう戻れない




雨の夜傘を濡らしたくはなくて定時で帰れないことにした




空のない部屋に閉じ込められるためこの街に来たわけじゃないのに




ビル風がどこに行くのか気になって午後から休むことにしました




三日月が沈むあたりに住むきみがぼくを思い出しませんように




奪われることがこの時期多すぎてあの横綱も春に散るのか




週末の夜に巻き散らかしてきた足跡はみな北を向いてる




お互いの夜の長さを持ち寄ってそれでも一歩踏み出せなくて




気がつけばきみの炎は消えていてぼくの季節は燻ったまま




春が来てぼくに選択肢はなくてぬかるんだ道歩くしかない




目覚めたら週の真ん中水曜日ベッドの海に溺れても朝




金曜の雨は優しい顔をして本音を吐けと追い込んでくる




早朝の身体は少し透けていて邪悪な雲に同化しやすい




週末のぼくら浮き輪になりたくて貪りもせず抱き合っている




春風に堕ちてはいけない恋だけどおなじ鏡に映りたかった




失った恋を数える指だけが器用になって春風の吹く




誰もいない夜のホームは眩しくてつぎの電車は土星行きです




駆け足で過ぎゆくだけの春だから本気になれば傷を負うだけ




熱が出る予感のように脈を打つ明日はあしたのぼくになりたい




できるだけ遠いところにいきたいなそろそろ影と離れたいんだ




正しさを求めてしまう春だから本音を隠すようになったね




終わるのが怖かったんだぼくはまだ花のようには潔くない




五月には五月の罠があるだろうほうじ茶ラテが薄く感じる