2024年11月2日土曜日

短歌  2024年3月

指を折るすがたが可愛かったから俳句勧めてみた金曜日




潤む目を吸い込む保安検査場きみの歩幅のままで見送る




各駅に停まるこどもの笑い声もうそれだけで春と認める




十八年見せたことない顔をして雪降り止まぬ卒業の朝



行き先も決められぬまま切符買う春は本当のことを言わない




あのころは星のなまえに囲まれて一生夜でいいと思った




雪溶けてぬかるむ路に阻まれたぼくを残して春がはじまる




ぼくたちはいつまで意地を張るのだろう絶望的に海が眩しい




ぼくがいないタイムラインが楽しげで紙飛行機を飛ばしたくなる



オリオンがずいぶん西に傾いてやさしい顔をしてる。さみしい。




土曜日はくもり時々雨だからあなたの過去に目を瞑りましょう




ぼくたちは金魚になろう店長がマツケンサンバ歌い切るまで




悔しくて叫びたい日はベジータになりたかったよ。たぶん今でも




平成も昭和も遠くなるけれど今朝も電車が走っているよ




元気玉つくる元気はないけれど空がひたすら青いこの星




ぼくたちはまるでモールス通信のように交互に素直になるね




残雪の涙流れるアスファルトいつかこの手も放すのだろう




気の早い春に呼ばれているけれどきみは写真の中で微笑む




どこまでが真夜中なのかわからずに星を追うのを諦めている




走れなくなれば黙って靴を脱ぐ誰かの記憶に残りたくない




下心あると思われたくなくて話せないまま冬も終わるね




春風が強すぎるからこの町の海が夜通し泣いているんだ




この町を去るひとはみな灯台を見て泣くというぼくも、もうすぐ




坂道を下りてのぼってそれだけを繰り返してた三年だった




満天の星が散らばる公園で弾けないギター抱えてねむる




柔らかい空に包まれたくなってわざと乗るバス間違えてみる




快速が春の線路を走るから大事なことを忘れそうだよ




街灯が泣いているのにぼくだけが傘差す気にはなれなかったよ




やわらかな春の朝だよ
自由にはなれないことに気づく朝だよ




飛行機が大地を蹴って舞い上がる未練のような影を残して




迷路から抜け出た時は嬉しさも寂しさもあり春の青空




星に問うぼくの居場所はどこですか最終電車の音が聞こえる




時間だけ過ぎ去ってゆく窓を見る月が細くてきみにあいたい




三月の嵐が壊したいものにぼくのあしたは含まれますか




まどろみはすぐに逃げ出すてのひらを上に向けても下に向けても




液体になるのも悪いことじゃない微笑むように雪がほどける




飲み過ぎて朦朧とした空の下一面に咲くぼくの足跡




この海のむこうで同じ星をみる同じ想いが同じため息




XもBlueskyも閉じた午後ことばは空を染めようとする




あちこちに穴があいてる優しさが骨身に沁みるときもあるよね




パンを買い白いお皿をもらうのが春の条件だと思ってた




朝日差す部屋が穏やかすぎるからきみの鎖骨も思い出せない




春風よ少し黙ってくれないかあのひとの名が思い出せない




春なんか来なきゃいいのに珈琲の酸味が好きになってしまった




明日からは乗らないバスがぼくのこと忘れるように「つぎとまります」




この町にこぼれた星の囁きを燃料にして灯台は点く




絶望に負けたくはない春なのに曖昧なうた歌ってたんだ




ほんとうに欲しかったからあのひとのことばの丘を走り続ける




望郷の念に駆られた北風がせつない唄を思い出す浜




春ですね。変わることには臆病でまだオリオンを探そうとする




足立区をガザ地区と聞き間違えて少し苦味が増したコーヒー