2024年11月2日土曜日

短歌  2024年2月

氷点下十五度の朝
きょうだけは粘土のように生きていたいよ




夕方のペットショップでまっしろな仔犬が西の空を見ていた




氷白の海は多くを語らずにぼくの青さを隠してくれる




あなたにはほかに愛するひとがいてぼくは雪道歩くしかない




行間を雪のあかりが照らすからぼくは金魚になれそうもない




ひとひらの雪の行方を追うように忘れられない恋があります




街灯のひとつひとつが寂しげな詩を紡いでる星に住んでる




No Woman, No Cryとは言えなくてガラスの欠けた夜をみていた




星の声聞こえるような夜なのにどうして忘れられないのかな




朝風呂に沈んでみれば浮遊する春の記憶は少しかなしい




北風が不意にやさしい顔になりシナリオにない恋がはじまる




あのひとに雪を届けてあげたくてぼくは死んだら雲になります




真夜中を自由に生きてみたいけど星のなまえが忘れられない




いつまでもチュートリアルのままでいい全てを知ればきっとさみしい




青空が背中を押してくれるから無理に大人にならなくていい




いつまでも雪降るわけでないけれど悲しいときは泣いていいよね




春だから変わらなければなどというそんなことないそのままでいい




血液がぼくのからだを離れゆくアンパンマンにぼくはなれない




青空に裏とおもてがあるのなら誰に本音を言えるのだろう




静寂を破る(お風呂が沸きました)夢はだいたい泡になります




川沿いのホテルの窓は冷たくてひとりぼっちがふたり居る部屋




雪解けの匂いが夜に染みついてさよならなんか言えるわけない




夕刻の羽田第一ターミナルどうしても手を離したくない




雪が降るもうすぐいなくなるのならもっと冷たくしてもいいのに




あの夜のアールグレイが透きとおる隙さえあれば好きと言いたい




どれだけの猫の動画をみてもなお取り戻せない夜があります




忘れると決めても忘れられなくて枯木に星は咲いていますか




いつまでも忘れたくない冬だけど雪が解けたら萌えるのでしょう




雪だった水が流れるアスファルトぼくだけ冬に取り残されて



告白は度胸があるか無いかだけ
しどろもどろのトペ・スイシーダ




夜までの距離がどんどん遠くなる春がふたりを惑わせている




儚げな色鉛筆が好きだったあなたの虹にぼくは居ますか




あたたかい日が増えてくる忘れたくないことばから淡く消えゆく




買ったきり一度も読まれないままに西日を浴びる老人と海




鎮痛剤飲んでしまえばきみのこと許せなくなる気がしちゃうんだ




街中の音を吸い込む雪のなか無言の窓がいま走り出す




三連休最後の空が泣きそうで時間を止めることもできない



感情がむき出しになる日曜の夜にあなたも泣いてるんだね




寝不足の朝は迷子になりたくて無口な鳩が集う公園




ぼくたちの距離を縮める術もなく花の季節が近づいている