2024年11月2日土曜日

七ならべ  2024年3月

互いのきもち
知っていたのに
ぼくらは一歩
踏み出せなくて
三十五年
経ってしまった
きみには孫が
いるらしいけど
ぼくの中には
あの賑やかな
眩しい夏を
駆け抜けていた
きみがいるから
はじまりがなく
おわりもなくて
ふたりはそれで
いいと思うよ
(2024年3月2日)




世界すべての
ありとあらゆる
嘆きがここに
集められると
言われてるけど
ぼくの記憶は
ここにはなくて
自分自身が
何者なのか
わからないまま
毒を飲み干す
きっと宇宙は
弧を描くから
ある角度では
ぼくも存在
できるのだろう
(2024年3月7日)




春夏秋冬
繰り返しても
同じ季節は
二度とないから
いつでも月は
新しいまま
もうあの場所に
戻れないこと
わかってるけど
見上げてみれば
空はあまりに
広すぎるから
いつかひつじに
なれたらいいな
ぼくはいまでも
そう思ってる
(2024年3月12日)




オレはオセロで
負けたことない
そう豪語する
狩人がいた
白黒つかぬ
ものごとだって
この世界には
あるということ
伝えるために
ぼくは花火を
打ち上げたんだ
彩りなんて
関係なくて
衝動だけが
あれば良かった
失うことが
怖くなかった
永遠の夏
(2024年3月15日)




春のかげりに
気付かなければ
ずっと笑って
いられたのかな
窓から見える
空はわずかに
傾いていて
打ちひしがれた
今のぼくには
どんな歌より
旋律だった
(2024年3月15日)




坂の上から
みえる景色が
日々真っ青に
彩られゆく
それがどうして
切ないのかは
ぼく自身にも
わからないけど
窓を容易く
開けてしまえば
すべて失う
ような気がして
そう簡単に
笑えないんだ
春は平気で
嘘をつくから
(2024年3月19日)




さくらは満ちる
てのひらの上
思索はゆびの
あいだを抜けて
雲の合間に
溶け込んでゆく
さくらは満ちる
夜の隙間に
いまでも冬の
地図を開いて
戻らないひと
待ち続けてる
さくらは満ちる
春のいたずら
ぼくの知らない
色を重ねて
どこか遠くの
嘘になりたい
(2024年3月21日)




眠気を拒む
カーテンを開け
あいまいな月
部屋に呼び込む
月は紅茶が
大好きだから
時間の箱に
しまっておいた
オレンジペコで
もてなしてみる
月の本音を
開けてしまえば
ぼくの季節も
走り出すから
いずれは花も
咲くことだろう
(2024年3月27日)