2024年11月2日土曜日

七ならべ  2023年6月

感情なんて
邪魔なだけだと
見上げた先の
窓がつぶやく
それはそうかも
しれないけれど
塗り分けられた
喜怒哀楽が
息絶えるのを
見届けるまで
祈ってるから
わたしはここを
離れられない
きみの旅立ち
風で隠して
(2023年6月2日)




すうじの1が
えんとつだった
遠い季節は
夕陽がとても
永遠だった
オレンジ色に
染まったままで
ひとの話を
聞き流してた
ぼくたちはもう
時間がなくて
四角四面の
歌に興ずる
そしていずれは
この肉体も
オレンジ色に
沈むのだろう
(2023年6月5日)




旅立ちの午後
雷鳴が鳴る
少し手荒い
祝福だけど
きっと良いこと
あると思うよ
 
うしろ姿を
見送るときは
時計の針が
遡るから
絵具の色が
いくつあっても
吐き出すことが
出来ないでいる
 
予期せぬ雨が
降り出したから
ごまかせるかと
思ってたんだ
(2023年6月6日)




死の入口は
急に電気を
つけたみたいに
目が慣れるまで
何もみえない
かたちも色も
定まらなくて
あらゆるものが
安定しない
やがて目が慣れ
世界が見える
そこに真っ赤な
花があるなら
それが来世の
種を産みます
(2023年6月7日)




雨の叫びが
弱まってきて
闘いはもう
終わりだと知る
駆け引きなんて
柄じゃないから
ただ殴られる
だけだったけど
雨雲が去り
覗く青空
そんな気分に
まだなれなくて
キスを忘れた
サンドバッグは
白い手帳を
滲ませていた
(2023年6月8日)




もしもし、ここは
天国じゃない
地獄かどうか
わからないけど
いやな野菜や
ずるい果物
そんな奴らが
おどる食卓
声を潜めて
ぼくはちいさな
詩を書き留める
だからこのまま
切らないでいて
きみを想えば
明日があるから
(2023年6月10日)




晴れた週末
ここち良い風
白いカーテン
揺れる窓辺で
アイスティーには
なにも入れずに
雲の白さが
夏を先取る
やがて日が暮れ
風は冷たく
残されたのは
罪の意識と
幻想の痕
絵本はいずれ
読み終えるから
続きは爪で
語るしかない
 (2023年6月12日)




失うことで
出来た隙間を
悲しみで埋め
憎しみで埋め
土に残した
遠い豊穣
壊すものなど
もうないけれど
ひとのこころは
ただ穏やかに
壊れるときを
座して待つだけ
 (2023年6月13日)




折れた気持ちが
さまよう夜は
闇と欺瞞で
満たされてる
嘘の湯船に
漂うように
遠い約束
思い出しても
地図のうえでは
述語の場所が
あやふやなまま
月が代わりに
泣いてくれたら
夏の毛布を
抱いて眠ろう
 (2023年6月14日)




蛇口ひねれば
水は出るけど
水の気持ちを
知る者はなく
失意の中を
ただ流される
ぼくは水には
なれないけれど
水の気持ちに
なってみたくて
だから今夜は
歓喜を模した
ことばの束を
瓶に沈めて
月を浮かべた
海に流そう
 (2023年6月15日)




雲が見た目を
気にしだしたら
夏がそこまで
来たということ
終わらない日の
まっすぐな道
きみが一緒に
いてくれるなら
もっと遠くに
行けるはずだと
気がついたんだ
夕焼け空が
寂しく見えて
つい立ち止まる
 (2023年6月16日)




夕陽はいつも
雄弁過ぎて
ぼくは黙って
聞いているけど
ひとの想いは
様々だから
ただオレンジに
染まるしかない

ぼくにつながる
すべてのひとが
よい週末を
過ごせるように
まるで夕陽に
なった気持ちで
ぬるいほうじ茶
飲み干してみた
 (2023年6月17日)




逃げた夜汽車を
追いかけるから
ほどけた恋を
結びなおそう
おなじ姿勢で
膝を抱えて
それぞれの夜
過ごしてるけど
ふたりの気持ち
乗せた夜汽車が
汽笛を二回
鳴らしたのなら
星のカーテン
開けてしまおう
夜汽車が駅に
捕まるまでに
 (2023年6月18日)




鍵を開けなきゃ
夏じゃないよと
脅されている
恋をするのは
夏の揚力
恋しないのは
夏の抗力
どう転んでも
空を飛ぶから
時のながれに
任せてしまえ
そう言われても
焦っちゃうよね
夏がもたらす
妄想の画は
過去最強の
高気圧から
送り出される
 (2023年6月19日)




夏の道路に
ためらいはない
振り返らずに
ただ進むだけ
どうせどこかへ
たどり着くから
深紅の夜や
黄色い朝を
手にすることは
容易いけれど
そんなに欲しい
ものだったのか
痕になるまで
気づかなくても
醒めない夜は
罪深いから
のらりくらりと
歌い続ける
 (2023年6月20日)




三日月ならば
座れるはずと
幾多の魔女が
試してみても
ひとりたりとも
座れなかった
あの曲線に
魅せられるのは
ひとであるなら
当然のこと
だから今夜は
誰も知らない
呪文唱えて
月に本音を
吐かせてみよう
案外それが
恋のはじまり
かもしれないし
 (2023年6月21日)




ラムネの瓶が
涙の色で
出来ているのは
星がねがいを
捌ききれずに
漏れ落ちたのが
ビー玉だから
悲しみだけを
集めるクマが
森に隠して
森が泣いてる
星も泣き出し
ぼくも泣くから
誰も知らない
流星が降る
 (2023年6月22日)




空を着替えた
金曜の夜
自由の意味を
あいまいにして
来ないメールの
返信を書く
変わることない
気持ちを連れて
闇の海辺に
週末なんて
消えてしまえ!と
叫んだあとは
うしろめたげな
汽車で帰ろう
 (2023年6月23日)




白昼夢には
濃さがないから
目覚める前の
蜜を味わう
一瞬でなく
永遠でなく
いたちごっこの
時に溺れて
ぼくの思考が
沈んだ先の
不埒な場所に
また戻りたい
 (2023年6月24日)




雲ひとつない
日曜の午後
カラーひよこの
デモ行進で
商店街は
機能不全に
ぼくは用事を
何も足せずに
「ぬ」からはじまる
固有名詞を
集めはじめた
ぼくは豆腐が
大好きだけど
豆腐はぼくに
飽きたらしくて
雲ひとつない
日曜の午後
ひとりの空を
ただ眺めてた
 (2023年6月25日)




甘えることに
自信がなくて
やせ我慢する
癖が抜けない
描いた明日に
素直になれず
夏を生み出す
理性のウラで
歪んだままの
汗が噴き出す
 (2023年6月26日)




シロツメクサが
一面に咲く
午後の公園
おしりの下が
ふかふかしてて
泣きそうになる
みつけたくても
みつけられない
やわらかな場所
こんなところに
あると知らずに
たった今まで
無駄に吠えてた
蒼い記憶を
染み込ませたら
道理が枯れた
戦場に行く
 (2023年6月27日)




眠れぬ夜を
いくつ重ねて
言いたいことは
言えるのだろう
失うことを
恐れるあまり
子犬のように
しっぽを隠す
それを見ていた
夏の花火は
ラフマニノフを
奏でるように
萎みはじめる
伝えたいこと
伝えないまま
見せつけられた
夏の逃げ足
 (2023年6月28日)




たいせつなもの
うしなった夜
それでもぼくは
七つの音を
ならべ続けた
ぼくには他に
家具がないから
七つの音の
その先にある
真っ白な場所
いつかはそこに
旗立てるけど
それよりぼくは
このやり方で
きみが残した
ことば並べて
馬鹿ばなしする
部屋をつくろう
 (2023年6月29日)




今年も既に
半分が過ぎ
少し焦りが
芽を出してきた
時が過ぎれば
いろんなことに
追い詰められる
気もするけれど
意外となにも
変わってないし
星が光れば
切なくなるし
紅茶を飲めば
嬉しくなるし
焦らなくても
生きていけるよ
 (2023年6月30日)