見えないままに
過去が燃やされ
見えないままに
今が拡がる
見えないままの
未来のすがた
このブランコで
届く範囲は
限られるけど
その範疇を
知り尽くすのが
人生と説く
木々の教戒
(2023年5月3日)
花に生まれて
花として散る
ただそれだけの
奇跡の裏に
花弁を散らす
風の苦しみ
花がきらいな
風などいない
散らす役目は
担いたくない
それが本音で
花が散るのが
運命ならば
散らせる風も
運命だから
その役割を
演じ切るだけ
ようやく風に
なれたのだから
(2023年5月4日)
花の季節は
騒がしいから
風のあくびを
待っていたんだ
陽は眩しくて
水面に浮かぶ
たくさんの詩が
踊り出すけど
迷う要素は
どこにもなくて
きみでなければ
言えないことば
ぼくはたくさん
抱えてるから
この恋だけは
過去にできない
(2023年5月6日)
祭りのあとの
風はつめたい
出番の来ない
脚本を閉じ
ひとりの道を
また走り出す
根無草にも
郷愁はある
流されている
顔してるだけ
舞台の裏は
きみだけにしか
みせないけれど
本格的に
季節が動く
その圧力に
ぼくは背中で
詩を諳んじる
(2023年5月8日)
ひとりの庭に
落ちてきた星
か弱く光る
紫陽花のかげ
触れてしまえば
飛び出しそうで
見守るだけの
夜だったけど
いつしかぼくの
胸のあたりに
同じかたちの
星が生まれた
きみのことばに
惹かれちゃうのは
星に具わる
引力のせい
(2023年5月12日)
きれいな本を
読むひとだった
図書館の隅
窓辺の席で
ぼくは全く
集中できず
弱い木漏れ日
集めてばかり
本をきれいに
扱うひとは
やがてからだが
繭玉になる
あのひとはまだ
読み終わらない
本を開いて
初夏のカーテン
纏うのだろう
(2023年5月16日)
五月の海は
夢をみていた
果てることない
景色のなかで
ぼくは未だに
欲があるから
泡になるのは
まだむずかしい
いずれはここに
還れるように
ことばの影で
絵を描いている
五月の海は
少しあきれた
顔をしながら
夢をみていた
(2023年5月17日)
キリマンジャロの
場所を教えて
目を合わせずに
きみがつぶやく
とりあえずいま
気になることは
きみのあたまに
浮かぶことばが
何文字なのか
四文字ならば
ぼくは消えるし
五文字だったら
この星空を
切り裂くだろう
きみは答えを
明かさないまま
キリマンジャロは
夜に紛れた
(2023年5月18日)
暑くなったり
寒くなったり
こころのように
日々はざわめく
生まれてみたり
壊れてみたり
ソファーの上で
ゆがむ輪郭
好きなものさえ
過去形になる
そんな季節に
決して消えない
虹に出逢った
消えないことは
罪というけど
あしたを生きる
動機にはなる
(2023年5月19日)
空の高さを
知らないままに
ぼくらは別の
道を選んだ
ここから先は
歩くしかない
支えられたり
支えてみたり
そんな世界も
憧れるけど
ぼくにはぼくの
役があるから
雲のなみだを
追い続けるよ
(2023年5月20日)
雲のなみだは
気持ち次第で
温度が変わる
今日のなみだは
とても冷たい
悲しいことが
あったのだろう
泣きたいときは
泣けばいいから
ぼくも一緒に
泣いていいかな
雲のなみだは
すぐ乾くけど
ぼくはそんなに
器用でなくて
涙の跡を
照らす夕日に
煙のような
言い訳をする
(2023年5月21日)
雲のなみだは
喋れないけど
気持ちによって
温度が変わる
今日のなみだは
とても冷たい
悲しいことが
あったのだろう
泣きたいときは
泣けばいいから
ぼくも一緒に
泣いていいかな
雲のなみだは
迷いがなくて
ぼくの涙も
飲み込んでゆく
いつしかぼくも
雲の気持ちで
泣いてしまった
雲のなみだは
すぐ乾くけど
ぼくはそんなに
器用でなくて
涙の跡を
照らす夕日に
あまりに下手な
言い訳をする
(2023年5月21日)
月の沙漠を
部屋に広げて
ぼくはこれから
どこに行こうか
失ったのは
あたたかい場所
探しているのは
やわらかい場所
のどの渇きを
抑えられれば
今日一日は
生きられるから
大好きな歌
忘れたままで
燃え尽きそうな
過去を畳もう
(2023年5月22日)
聴くひとのない
ラジオのように
ただ文字列を
垂れ流している
ぼくのことばは
届いているか
確信なんて
ひとつもなくて
凍えた海の
灯台に似て
照らすものさえ
みつからなくて
それでもどこか
信じてもいる
それがことばの
raison d'être
気持ちは距離に
比例するから
やさしい声に
靡いてしまう
ただ理解して
欲しいだけなら
違う手段も
あるはずだけど
手を広げたら
空になるから
綴るしかない
指先の熱
(2023年5月22日)
千枚通し
はさみ、コンパス
ステープラーに
カッターナイフ
凶暴そうに
みえる文具は
傷つけるのが
実は苦手で
仕事のたびに
こころ痛める
そんなことなど
知る由もなく
人は彼らを
雑にあつかう
痛むこころは
共有されず
文具の夜は
星もみえない
引き出しの中
(2023年5月22日)
坂をのぼれば
異世界がある
知らないものに
憧れるのは
生きているなら
当然のこと
坂の向こうに
広がっている
森や畑や
空を見たくて
でも簡単に
近づけなくて
ぼくは死んだら
雲になるから
坂の向こうに
惹かれてしまう
坂は人生
そのものだから
味わうように
進むしかない
坂の途中で
見える下界は
のすたるじぃの
みずうみだった
(2023年5月23日)
ひとつ残った
クリームパンが
テーブルの上
西日を浴びる
去る寂しさと
残るつらさと
比較するのは
意味ないけれど
自分の価値が
認められない
そんなつらさが
夕陽に溶ける
クリームパンの
かなしい顔が
鏡に映る
ぼくに似ていて
ぼくは自分を
食べたくなった
(2023年5月23日)
月のかたむき
見ないふりして
春の童話を
演じ続けた
それはいわゆる
ひとり芝居で
矛盾に満ちた
結末だけど
無意味な雨に
沈みたかった
雨さえ止めば
午後のしずくが
形骸化した
ぼくに染み込む
これから夏と
向き合うために
眠れぬ夜を
四捨五入して
(2023年5月24日)
うつろな朝に
海はかがやく
せつない夢と
恐ろしい夢
忘れた恋と
忘れ得ぬ恋
そのいずれをも
海に呑ませて
ぼくはここまで
生き延びてきた
ぼくの預けた
負の感情が
今朝はこんなに
かがいている
夏はもうすぐ
見慣れぬ髪を
揺らすのだろう
(2023年5月25日)
月がきれいで
歩けなくなり
孤独を濡らす
夜のやさしさ
ほんの一瞬
通じ合うなら
風を吹かせる
必要もない
花の迷いを
肌に馴染ませ
きみのことばに
鍵を隠そう
(2023年5月26日)
未来の記憶
辿る週末
見たことのない
景色の中で
紡ぐことばを
真っ青に染め
宙への距離を
細かく刻む
いつかいのちは
意味を失い
ただそこにある
標識となる
それでもどこか
口寂しくて
あのひとの影
探してしまう
夢のあとがき
読み飛ばしたら
飼い慣らせない
ぼくの夏空
(2023年5月27日)
時計をふたつ
置いていたのは
きみのことばを
待っていたから
夜更かしなんて
いつ以来かな
そんな会話も
週末ならば
チェイサーになる
明けない夜を
抱き締めたくて
遠ざかりゆく
詩を隠し持つ
(2023年5月28日)
紡ぎつづけた
ものがたりさえ
ただ一瞬で
崩れ去るから
こころをどこに
置いていいのか
夜の迷子が
途方に暮れる
ことばは時に
果実を割って
蜜のかたちで
喉を潤す
そのことさえも
わからなくなる
傾きだけを
夏に引き継ぐ
(2023年5月28日)
見えないままの
約束を手に
陽が落ちにくい
公園にいる
伝えたいのは
衝動だから
落ち着きのない
ブランコを漕ぐ
詳細な地図
手に広げても
道のりなんて
わからないから
結論のない
本を開いて
妄想の種
蒔いて眠ろう
この妄想を
花束にして
渡せる朝は
来るのだろうか
(2023年5月29日)
星になるため
この町にきた
二年経っても
宙に上がれず
ことばの海に
沈んでしまい
ほんとうのこと
忘れかけてる
澄んだ夜空を
どれだけ観ても
ぼくの居場所は
どこにもなくて
靴もかばんも
投げ捨てた手で
すっぱいぶどう
あつめて眠る
(2023年5月31日)