2024年11月2日土曜日

七ならべ  2023年8月

時計の針は
嘘つきだから
この鼻先は
信用しない
あなたのいない
夏の夜明けを
分解しては
また組み立てる
それでもやはり
信じられずに
本気の骨を
削りたくなる
汚れた旅に
疲れ果てたら
タンクトップに
詩をあぶり出せ
(2023年8月1日)




止むことのない
月のしずくが
夜更けの部屋を
支配している
驚愕でなく
恐怖でもなく
心音に似た
確からしさに
使う前置詞
間違えたけど
夢のたまごを
放置したまま
朝が来るまで
唱え続けた
夏の文法
もう覚えては
いないだろうな
(2023年8月2日)




山の向こうに
眠ることばを
確かめたくて
きみの元まで
まもなく夜に
塗られるけれど
どうしても今
確かめたくて
カラスが帰る
空を切り裂く
(2023年8月3日)




巻き戻せない
カセットテープ
ダッシュボードに
そのままにして
あの過ちの
影のながさを
思い出そうと
夜に彷徨う
レモネード持つ
右手はやがて
あたたかいもの
求めだすから
先回りして
サブスクにない
夏の記憶を
手当たり次第
呼び戻すんだ
(2023年8月6日)




微熱のなかで
夢をみたんだ
ことしの夏は
ことし限りと
そう言われると
急に時間が
愛おしくなる
ポップコーンが
なくなる頃に
笑いあえたら
ただそれだけで
ことしの夏を
描ける気がする
(2023年8月6日)




星の約束
つくえの隅で
今日がその日と
気づかずにいた
曇ってるから
見えないけれど
耳を澄ませば
声は聞こえる
あの頃ぼくは
星に願えば
どんな場所にも
飛べたんだけど
いまは鎧が
重すぎるから
夜釣りのように
星をあつめて
遠くの恋を
温めている
(2023年8月7日)




夏の雨には
裏があるから
額面どおり
濡れちゃいけない
映画一本
見終えたときに
まぜこぜになる
あの感情で
街を歩けば
浮いてるような
気になれるから
そこで初めて
濡れるのがいい
忘れたいこと
流せるように
(2023年8月8日)




暑い、暑いと
汗かきながら
思いどおりに
いかない夏を
手放すように
呟いている
聞いているのは
扇風機だけ
何を言っても
首を振るから
ひとりぼっちの
まどろみの中
あこがれていた
靴をならべて
行き先はまだ
宙ぶらりんで
それでも一歩
踏み出したなら
そこから秋の
芽は出るだろう
(2023年8月9日)




スマートフォンの
隠し機能で
過去のことばを
書き換えてみた
消せない過去を
消してしまえば
ぼくの居場所は
なくなるけれど
それであなたが
救われるなら
それでもいいと
思ってたんだ
記憶はやがて
あいまいになる
記録はいつか
粉々になる
過去にすがって
生きているのは
くだらないとは
わかっていても
居心地の良い
場所がそこなら
干し草敷いて
星に沈もう
(2023年8月10日)




空を見上げる
ひとが増えれば
空はますます
高くなるから
ひとに言えない
過ちだって
そのうち青く
染まるのだろう
儚いものは
美しいから
瓶に入れても
見えなくなるし
ただ一度きり
想い伝えて
読みかけの本
閉じて帰ろう
(2023年8月11日)




あの夏に見た
雲のくじらに
また会いたくて
海沿いの町

好きだった子が
転校した日
見上げた空に
みつけたくじら
きっとあの子が
連れていったと
信じてたのを
ふと思い出し
この町に来た
あの子はいまも
ここにいるのか
あれから既に
何十年も
経っているから
再会なんて
無理だろうけど

水平線に
並んだ雲が
やがて大きな
かたまりになる
雲のくじらに
会えたけれども
こころの穴は
埋まることなく
ぼくが求めて
いたものを知る
(2023年8月12日)




夏の終わりを
哀しむように
きみのことばが
やわらかかった
窓を開けたら
太鼓の音が
なくしたものを
呼び寄せるけど
ぼくの記憶は
気化してるから
掴むことさえ
二度とできない
今夜は星が
落ちるというし
繋げない手を
伸ばしてみては
夜の模型に
青く色塗る
(2023年8月13日)




朝、一杯の
牛乳を飲む
なにが望みか
わからないまま
呪文のように
噛みしめながら
白く染まれば
見えなくなって
ぼくのことなど
忘れるだろう
飲み終わる頃
花火のような
記憶は徐々に
傷みはじめる
(2023年8月14日)




陽が沈んだら
物語になる
それより先に
伝えなければ
悲しい花に
差す水になる
ことばはいつも
揺れているから
大縄跳びに
入る間際の
小さな決意
呼び起こしたら
ただひと言を
テーブルに置き
あとは水面に
消えてしまおう
(2023年8月15日)




やさしい本が
欲しかったから
このまま夏に
沈みたかった
手を伸ばしたら
そこにいること
確かめたから
不安はただの
まやかしだって
季節を超えて
信じられるよ
空に上がると
まだ明るくて
繰り返し手を
伸ばしたくなる
(2023年8月16日)




空の上から
眺める海は
皿に盛られた
生き物のよう
動きはまるで
読めないけれど
彼らはきっと
意志を抱いて
大地の核を
満たそうとする
海の青さが
なにも解決
されないままに
凝視していると
飲まれてしまう
(2023年8月17日)




アップデートが
うまく出来ずに
ふっかつしない
じゅもん残して
逃げ出してきた
繰言なんて
脳のおならと
いつかのきみは
言っていたけど
景色は迷う
ためにあるから
言えずじまいの
本音を抱いて
朝の港で
ロシア語話す
蟹を探そう
(2023年8月18日)




どちらの船に
乗れば良いかが
迷う週末
ビー玉ふたつ
転がしてみて
期待と不安
どちらも一理
あるのに気づく
海はほどほど
穏やかだけど
目に見えるのは
ほんの一部で
表面だけで
気を許したら
こんなはずでは
なかったなどと
言う羽目になる
そんなリスクも
織り込みながら
転がってくる
ビー玉拾い
土曜の夜に
消せない痕を
残そうとする
(2023年8月19日)




正解なんて
いくつもあるし
間違いだって
いろいろあるし
正しいことを
追い求めても
達成感は
遠のくばかり
マリーゴールド
並んだ庭で
昔のことを
思い出しては
やっぱりあれも
正しかったと
知られぬように
花丸つける
そういうことが
平気でできる
歳になったし
頷くことが
人生だって
今なら自信
もって言えるよ
(2023年8月20日)




夏は記憶で
出来ているから
大事なことが
あやふやになる
秘密の会話
重ねていれば
甘いことばに
汗が流れる
それが夢にも
現れるから
夢と現実
区別もせずに
あの夏の日も
シャツを濡らして
熱れるように
泣いていたっけ
(2023年8月22日)




地図が途切れて
読めない先を
淫靡に灯す
風のみちびき
流れのままに
歩くふたりは
たどり着くのも
拒んだままで
冷製パスタ
食べ損ねても
汗はそのうち
引いていくから
駆け引きなんて
興味もなくて
ベッドのうえの
夏の一コマ
(2023年8月23日)




あたためられた
身体揺らして
夏の精算
始めたけれど
まだまだ汗が
止まらないから
永遠の夏
信じてしまう
空に浮かんだ
雲を追いかけ
日記帳には
記号だけ書く
(2023年8月24日)




金曜の夜
荷物を下ろし
自分自身に
帰りたいけど
そうもいかない
あれやこれやが
花火のように
盛り上がりゆく
冷めた目で見る
よくない癖が
ぼくを淋しい
ひとにさせても
居るべき場所が
わかっていれば
迷うことなく
月になれるよ
(2023年8月25日)




夕立が降る
夏の終わりに
なにを鞄に
詰め込もうか
ことばだけでは
伝えられない
丸みがかった
感情の尾を
どのようにして
表現するか
それがわかれば
身体の奥で
脈打っている
その振動を
同期させよう
秋の大地を
俯瞰しながら
(2023年8月26日)




休みの朝は
公園に行く
ただぶらぶらと
歩いていると
いろんな人が
いろんな顔で
朝の空気を
吸い込んでいる
皆それぞれに
大切なもの
抱えて生きて
たまには深く
息したいよね
そんな景色に
埋もれていたい
みんなのうたに
溺れていたい
(2023年8月27日)




夏の終わりの
雨に濡れれば
忘れたくても
忘れられない
そんな暑さが
背中に残る
伝言めいた
感触だけで
ポートレートを
作り上げたら
夜のささやき
耳のくぼみに
置いておくから
夢で会おうよ
(2023年8月27日)




海辺の町で
海を知らずに
起きて寝てまた
起きてまた寝る
潮の香りに
気づくことなく
波の叫びも
届かないまま
ただ日常を
過ごしてるだけ
そんな箱から
飛び降りたくて
こっそり外に
飛び出してみた
夏の日射しも
もう疲れ果て
海はだんまり
決め込んでいる
初秋の海は
みな後悔を
捨てに来るから
陽気なウソも
ただ、嘘になる
(2023年8月28日)




綴ることさえ
辛くなるなら
すべてを空へ
放り投げよう
いずれことばは
降ってくるから
傘もささずに
見上げていれば
星のかけらも
箸でつかめる
もうすぐ夜は
雄弁になる
(2023年8月29日)




空の向こうに
宙はあるのか
確かめたくて
夜更かしをした
夜空は暗く
頼りないから
つなぎたい手を
探してしまう
どこまでも飛ぶ
紙飛行機を
風に預けて
見送ったけど
みやげ話が
あるわけもなく
ついにつないだ
手はそのままで
(2023年8月30日)




夜更けの街に
月のため息
浮かれた人は
気づけないけど
ひとりの部屋の
窓をすり抜け
月の嘆きが
頬に伝わる
サビの部分が
わからないまま
今年の夏も
去って行くけど
ひみつの場所に
赤い電車で
行った日のこと
書き留めたまま
月には甘い
お願いをする
(2023年8月31日)